あさい眼科 ブログ

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[目の病気Q&A(あさい眼科)]

[角膜移植について]

はじめに

角膜(黒目)には透明なレンズとしての役割と眼球の壁としての2つの役割があります。こうした働きが損なわれ、点眼など保存的な治療では治すことが出来ないと判断されるとき角膜移植が必要になります。具体的には、角膜が様々な理由で混濁した時や歪んで乱視が強くなり正しく光を屈折しない状態、あるいは角膜に穴が空いてしまった場合の主に3つが考えられます。角膜の構造は目の表面から内側に向かって「上皮」、「実質」、「内皮」の3層に大別されます。一般に角膜移植と言うと、この3層全てを移植する全層角膜移植の事を示す場合がほとんどでした。
全層角膜移植は約100年の歴史があり、最も古くから行われている手術の一つです。したがって、手術方法や術後管理についても実績があり、術後の視力に対する効果も確実なため角膜移植の中心を占めていました。しかし最近では技術の進歩にともなって角膜の悪い部分だけ取り替える角膜パーツ移植の時代に入っています。現在の角膜移植は大きく分けると、全層を移植する「全層角膜移植」、内皮から外側の上皮と実質を移植する「層状角膜移植」、そして「角膜内皮移植」の3通りの手術方法があります。全層角膜移植は角膜全層に混濁が及んでいる場合に行われますが、角膜の実質にのみ混濁が限局している場合には、層状角膜移植が選択される場合が増えてきました。層状角膜移植は全層角膜移植に比較すると、患者様の内皮を温存できるため拒絶反応のリスクが低い事が利点です。しかし、僅かながら角膜の混濁が残ってしまう事があり、視力が全層角膜移植よりやや劣る事が欠点です。そこでその欠点を改善した「深層層状角膜移植」という方法も行われています。
また数年前から内皮のみに障害がある場合には状況によって角膜内皮移植が可能になってきました。

角膜移植の原因疾患

現在、角膜移植の対象となりうる頻度の高い原因疾患は、(1)円錐角膜,(2)水疱性角膜症,(3)角膜炎後の混濁,(4)角膜変性症,などが挙げられます。
円錐角膜を真横から撮影した写真:角膜が突出していて不整乱視になっている
円錐角膜は10代後半から20代に発症し,角膜中央部が徐々に薄くなって角膜が不整に突出する疾患です。この疾患では角膜が突出して歪んでしまい、レンズとしての役割を果たせなくなってしまいます。原因は不明ですが、角膜実質の弾性の低下が原因と考えられ、一般的には遺伝性のないものが殆どです。アトピー性皮膚炎に合併する症例が比較的多いのも特徴です。中等度の症例まではコンタクトレンズで視力を矯正することができます。しかし、高度な円錐角膜ではコンタクトレンズでも矯正が困難である、あるいはコンタクトレンズ自体の装用が困難な場合には角膜移植が考慮されます。但し、円錐角膜といっても程度はいろいろあり、全員に手術が必要なわけではありません。

水疱性角膜症:角膜実質に浮腫がおこり角膜が混濁している
水疱性角膜症は角膜が浮腫状に混濁する疾患で,角膜内皮細胞の機能不全が原因です。角膜の内側には、「内皮細胞」があります。これが角膜でポンプの役割を果たしていて、角膜内の水分量を調整しています。この内皮細胞が様々な原因で減少し、角膜内に水分がたまってむくんでしまった状態が「水疱性角膜症」です。白内障手術後や緑内障に対するレーザーなど眼の手術の後に発症するものが日本では多く見られます。また、内皮細胞の減少する割合には個人差があり、角膜の様々な病気をきっかけに発症することもあります。以前に角膜移植を受けた患者の内皮細胞が減少して、再度角膜移植が必要になった状態も、広い意味で「水疱性角膜症」に含まれます。
ソフトコンタクトレンズ装用者でのアカントアメーバ角膜炎後角膜混濁

角膜炎後の混濁は高齢者が角膜移植を受けられる原因として多いものです。若い頃に角膜炎を患い、その後角膜に瘢痕(はんこん)が残ったものをいいます。角膜炎は細菌,真菌(かび),アメーバ,ウイルスなど様々な病原体が原因となって生じます。角膜の混濁の程度が重篤な場合は角膜移植の適応になります。

斑状角膜変性症

角膜変性症は遺伝子の異常によって、角膜に異常な物質が蓄積することになって生じます。角膜変性症の種類によって、遺伝しやすいものとそうでないものとがあります。顆粒状角膜変性症,斑状角膜変性症,格子状角膜変性症などがあり,程度の差はありますが両眼性であることも特徴の1つです。
疾患によっては角膜移植後も再発が生じ,繰り返して角膜移植が必要となる場合があります。

主要な角膜移植の種類

角膜移植は、主に表層のみを移植する「層状角膜移植」と、全層を移植する「全層角膜移植」、そして「角膜内皮移植」の3つに大別されます。層状角膜移植は、角膜の混濁が主に表層にのみある場合に行われ、全層角膜移植は混濁が全層に及んでいる場合に行われます。内皮細胞のみに障害がある場合は状態によって近年では角膜内皮手術が行われることが多くなってきました。層状角膜移植は、患者様の角膜内皮が温存されるため手術後に拒絶反応がおこる危険性が少なく、より安全性が高い方法と考えられています。しかし手術後に僅かな角膜の濁りが残ってしまうことがあり、視力は全層角膜移植よりやや劣る事が多いのが欠点です。更に最近、層状移植の欠点を少なくする方法として、「深層層状角膜移植」という方法も行われるようになりました。

全層角膜移植

角膜は眼の表面から内側まで、大きく分けて「上皮」、「実質」、「内皮」の3つの層に分かれています。この3層全てを移植するのが全層角膜移植術です。全層角膜移植は100年ほどの歴史があり、最も古くから行われている、歴史のある術式です。角膜の実質と内皮の両方に異常がある疾患では、この方法で手術を行います。水疱性角膜症の一部や角膜移植後の再移植が、この方法の適応疾患となります。また、深層層状角膜移植術の適応疾患でも角膜内皮細胞数が少ない場合は全層角膜移植の適応となることがあります。全層角膜移植はナイロンの極めて細い縫合糸で角膜を縫うため、手術後の乱視が高度になったり、縫合糸に細菌等の感染が時に問題になることがあります。

深層層状角膜移植(DALK)

これは、角膜の90%以上の厚みを取り除いてからドナー角膜を移植する方法で、従来の層状角膜移植よりも良い視力が期待出来ます。但し、0.5㎜程度しかない角膜を0.02㎜くらい残して削るため、技術的に大変難しく、手術中に残すべき患者様の角膜内皮とその基底膜であるデスメ膜に穴が開いてしまうことがあるのが欠点です。この場合には、やむを得ず全層角膜移植に変更されることがあります。また、内皮細胞が障害されている疾患の場合には、この深層層状角膜移植の適応にはなりません。内皮細胞に異常のない、円錐角膜や角膜炎後の角膜実質のみの混濁、角膜変性症などがこの方法の良い適応になります。全層角膜移植と異なり、患者様の内皮を温存することができるため、「内皮型拒絶反応」を回避できるという大きな利点があります。

角膜内皮移植(DSAEK)

患者様の内皮細胞とデスメ膜(内皮細胞の基底膜)を取り除き、ドナー角膜の内皮と深層実質を移植する方法です。近年では敢えて患者様の内皮細胞とデスメ膜を除去しないで内皮移植をする方法も考案されています。移植されたドナー角膜は、眼の中に空気を入れてその浮力で患者様の角膜と接着させます。全層角膜移植や深層層状角膜移植と異なり、ドナー角膜を糸で縫わないことがこの内皮移植の大きな特徴です。そのため移植術後の乱視などが軽減されるという利点があります。角膜内皮細胞の機能が不良となり、角膜に浮腫をきたした状態、すなわち水疱性角膜症がこの手術の適応疾患になります。但し全ての水疱性角膜症の患者様にこの手術方法を行えるわけではありません。例えば水疱性角膜症を発症してから1年以上の長い時間が経過して、角膜実質に強い混濁が生じてしまった症例では、内皮移植では視力の改善が得られないため、全層角膜移植を選択せざるを得ません。

拒絶反応について

拒絶反応とは、移植された他人の角膜を自らの組織から排除しようとする体の働きです。移植された角膜に様々な程度で炎症が生じます。角膜移植の場合は、手術後3~6ヶ月くらいしてから発症することが多いですが、1年以上経ってから発症することもあります。症状は、ぼやけて視力が低下するなどのことが多く、それ以外に目の充血や軽い痛みを伴うこともあります。拒絶反応の起こる確率は、原因となった眼疾患によっても変わりますが、角膜移植の約30%程度に起こる可能性があるとの報告もあります。角膜内に血管が入っていたり以前に角膜移植を受けていて再移植した場合には、通常よりも拒絶反応の危険性が高くなると考えられています。拒絶反応が起こった場合には、一刻も早く治療を始めることが重要で、角膜移植を受けた患者様には、角膜移植の後に視力低下など何らかの異常があった場合は、直ちに眼科の診察を受けるよう指導しています。 一般的には、拒絶反応の約3分の2は、点眼等の薬物治療によって治療することが出来ると考えられています。また、半数近くのケースは、点眼を自己の判断で中止したり、切れたり緩んだ糸をそのままに放っておいた症例であるという報告もあり、定期的な眼科主治医への通院を継続する事が大変重要と考えられます。

さいごに

これまでは角膜移植のほとんどが全層角膜移植でしたが、近年は深層層状角膜移植や角膜内皮移植の占める割合が日本でも増加しています。とりわけ角膜内皮だけが障害されている場合には、新しい移植方法として角膜内皮のみを取り替える角膜内皮移植(DSAEK)が増加傾向です。全層角膜移植や層状角膜移植では角膜の縫合に髪の毛よりも細いナイロンの糸で慎重に縫合しますが、この内皮移植では移植した角膜を全く縫合せずに手術を終えることができるため、移植術後に乱視が軽減する大きな利点があります。もちろん全ての患者様にこの手術が行える訳ではありませんが、これまでの全層角膜移植に比べると視機能の点からも今後の発展が更に期待されています。静岡県内では、浜松医科大学附属病院眼科、順天堂大学医学部附属静岡病院、やなぎだ眼科医院など、角膜内皮移植を行う施設が増えています。角膜内皮移植には、献眼されたドナー角膜から内皮層のみを切除するために、ケラトームという特殊な機械による準備が必要です。静岡県アイバンクは新規にケラトームを購入し、角膜内皮移植に対応できる体制も考えています。